白黒なのに色がついて見える不思議なコマ
ベンハムのコマ
みなさん ”ベンハムのコマ” をご存知でしょうか。
聞き覚えがなくても、人生で一度は目にしたことがあると思います。
白と黒のみで描かれた模様のコマで、不思議なことにコマを回転させると色がついて見えるので、楽しい実験工作としてよく取り扱われております。
このコマを早く回すと灰色に見えますが、回転が遅くなり "ちらつき" が出るようになると何かしらの "色" が見えてきます。
※ベンハムのコマの画像JPGデータDLはこちらを右クリックで保存
ちなみに色がついて見える理由はまだ ”よくわかっていない” そうです。
このコマは、1895年にイギリスのおもちゃ屋さんのチャールス・ベンハムがこのようなコマを売り出したことで有名になり「ベンハムのコマ」と呼ばれるようになったとのことで、120年以上も前からこのような現象が知られていたみたいです。
こちらのベンハムのコマの色は肉眼で見えますが、写真には色が映りません。
ということは、実際には色がついていなくて、目の錯覚で脳が色を付けているということですね。
回してみたGIF画像 ↓
※うっすら色がついて見え・・・る?
↓動画にしてみました。
大王のコマ
似たような色の付く白黒コマで ”大王のコマ” というものもあるようです。
こちらは自然光では色がついて見えないが、高速点滅している蛍光灯の下では色がついて見えるようです。 ※実は蛍光灯って1秒間に100回以上点滅しているんだって
こちらは色も写真に映りますので、錯視ではなさそうです。
不思議なコマの特徴について
特徴をまとめるとこのようになります ↓
白と黒だけの模様なのに、回すと色がついて見えるのは不思議ですよね。
これにはいろいろな理由があるので、”ベンハムのコマ” について簡単にまとめてみました。
↓この本にもベンハムのコマが載ってます。
ベンハムのコマが白黒なのに色がついて見える原因を考察
白は白じゃない? 光と色の説明
光は電磁波の一種で、波長の長さで色が異なります。
波長が長い順に色を並べると、赤>橙>黄>緑>青>紫となります。
赤より波長が長い光は ”赤外線” で、目に見えません。
紫より波長が短い光は ”紫外線” で、目に見えません。
※一部の動物や昆虫には見えたりします。
太陽の白い光を分解すると、たくさんの色が混ざって白色ができています。
夕日が赤いのは波長の長い赤以外の短い波長の色が、空気中のチリなどに当たって見えなくなり、残った長い波長の赤色だけ見えるのが理由です。
昔のテレビ画面をイメージするとわかりやすいですが、光の三原色であるRGB(Red:赤、Green:緑、Blue:青)の色が光って色を表現しており、消すと真っ黒になります。
つまり、ベンハムのコマの白にはすべての波長が混ざっていて白に見えているのです。
動く錯視は脳が原因? 脳と色について
動く錯視の ”蛇の回転” という、 北岡先生の有名なデジタルイラストがあります。
見ると視点の周囲が動いて見える不思議な錯視です。
人の脳には色を認識する錐体細胞が3つあり、S錐体は主に青、M錐体は主に緑、L錐体は主に赤の波長を吸収して色を認識しております。
そして実は脳が色を認識するまでに各錐体細胞によって若干誤差があるのがこの錯覚の理由です。
ベンハムのコマも白と黒の繰り返しが早くなる (周波数が約 50Hz を超える) と、灰色にしか見えませんが、一定の速度では特定の色がついて見えます。
(これは、白と黒を認識できていれば見える錯視で、回転が早すぎてグレーになると見えない錯視である可能性がありますね)
黒色のとき錐体細胞の反応が最小で、白色のとき同時に最大となればそのまま黒と白に見えますが、実際には白色のときの錐体細胞の反応速度に差があり、一部の色が一瞬先に見えてしまうことが原因のようです。
錯視が起きる理由について
錯視が起きる時に上記図のパターンで光を認識しております。
黒は刺激のお休み状態で、白は光の刺激があり、模様部分は白で認識した色の黒っぽい補色が少し見えます。
コマの外側 "A" で説明しますと、
①~③は光の刺激を目に受けます。ここで、目に飛び込んでくる光を感じ取る錐体細胞に脳が反応する速度に差があることがわかっております。
④の模様で、白い部分はそのまま①~③と同じ色が見えますが、それらに対比して黒い線の部分は①~③で見えた色に目がなれていると”補色”が重なって見えます。
⑤~⑧は同様に補色が少し重なって見えますが、全て黒いので色がリセットされて黒に見えます。そして①へ。
これは、赤い光の中で実験するとよく分かるようです。
①~③の白は赤く見え、④の模様は赤と補色の緑に見え、⑤~⑧の黒は補色の緑が重なって見えます。
これを高速で繰り返すので、補色の補色を、つまり赤と緑+黒が繰り返し見える用に脳が錯覚を起こします。
コマは何色に見える?
ベンハムのコマの模様は、4重の異なる色のついた線が見えます。
人によって見える色が異なるのですが、ある程度規則性があるようです。
こちらのサイトの「資料1:アンケート結果のまとめ)」では、何色に見えるかアンケートをとったところ、下記のような傾向が確認されたようです。
年齢が低い⽅が⻩⾊を⾒る割合が⾼く、年齢が⾼い⽅が紫を⾒る割合が⾼くなっています。
男性と⼥性2つのグループに分けて⽐較すると、⻩⾊や紫-⻘に差が⾒
られます。
こちらの理由について考えてみます。
年齢で見える色が変わる理由は?
1つ目の ”年齢が⾼い⽅が紫を⾒る割合が⾼くなる” のは納得ですね。
加齢による色覚異常で有名なのが目のレンズである水晶体が黄色く変色する白内障。常に茶色のサングラスをしているような状態に見えます。白内障でなくとも水晶体は紫外線の影響で加齢とともに黄色くなっていきます。
こうなると短波長の光の透過率を減少させ青い光が見えにくくなり、段々黄色、茶色、赤みがかって見えてきます。
つまり、歳を取るほど青が見えにくくなって、赤みがかって見えてしまいます。
男女で見える色が変わる理由は?
また、2つ目の男女差の色の見え方の違いは、色覚異常の割合を考慮すればある程度理解できます。
日本人では男性の20 人に1 人、女性では500 人に1 人の割合で色覚異常が発生しております。
一般的な色覚異常をざっくり説明すると、赤や緑を区別することが難しくなり、黄色が少し弱くなるので主に青っぽく見えます。
よく「焼き肉が焼けたかどうかわからないので大変」と言われてますね。
色の感じ方の違いはこんな感じ↓
ですので、アンケートの統計では、女性が黄色系の回答が少し多くて、男性は青系統の答えが多くなったと思われます。
人によって色が異なる理由と考察
ベンハムのコマの色が変わって見える理由は、未だによくわかっていないと言われております。
見る人によって異なる色が見える理由としては、先述の
① 加齢による水晶体の衰え
② 男女に色覚異常の発生率
が主な理由ですが、それ以外にも白内障のように黄色く見えていたり、環境光で色が変わると
③ ”色順応” が脳で起き認識する色が変わります。
白い部分に色がついて見えると、灰色の部分に少し補色の色が見える可能性もあります。
結局はいろいろな要因で色が変わって見えていたということですね。
しかし、 ここらへんの前提条件(コマの回転速度、照明や距離などの観測環境、年齢や性別や錐体細胞など観測者の状態)を統一して正確に観測して実験をした場合、一律で同じ色が見えると考えられます。
さいごに、
白と黒のものを高速で繰り返し見ることで、脳の錯視で色がついて見える
という不思議な現象になんとなく納得することができました。
※大量のパンダを数えている時に、パンダに色がついて見える可能性が……
また、上記の考察はエビデンスも不足しており、実験も行っておりません。あくまでも個人の推察ですのでご注意ください。